【陽菜子】
「あれ? これって……」

包みから出てきたそれを見て、陽菜子は一瞬きょとんと
した顔を覗かせる。

卿介が寄越したそれは、ギョロリとした目を吊り上げ
フェルトの牙をむき出しにした、珍妙なモンスターを
思わせるキャラクターのぬいぐるみだった。

【卿介】
「お子さん達の間で流行ってるテレビゲームに出てくる
  怪獣らしいんですが……気に入りませんでしたか?」

子供の頃から病室に閉じ込められ、アニメやゲームとは
無縁の陽菜子……

そうでなくても女の子に贈るには少々可愛さに欠ける
プレゼントだ。

陽菜子の反応が芳しくない事に気づき、卿介は選択を
誤ったのだろうかと後悔した。

しかし……

【陽菜子】
「ううん、そんな事ない。ありがとう真田さん。陽菜子
  すっごく嬉しいよ」

【陽菜子】
「えへへ……すごいお口だね。陽菜子、この子に食べられ
  ちゃいそう」

屈託のない笑顔でぬいぐるみを抱きしめる陽菜子を見て
卿介は心の中で安堵した。

【卿介】
「そうですか……つまらない物ですが、喜んでもらえて
  何よりです」

【陽菜子】
「え……?」

しかし卿介が漏らしたそんな一言を聞き、陽菜子が頬を
膨らませた。

【陽菜子】
「そんなことないよ! 真田さんが一生懸命選んでくれた
  のに、つまらないなんて言ったらこの子がかわいそう」

【卿介】
「…………」

【陽菜子】
「この子は真田さんに連れられて、陽菜子のところに
  やって来てくれたの……だからもう、お友達なんだ」

【陽菜子】
「大切なお友達のこと、悪く言われたら悲しいから……
  だから、つまらないなんて言わないで……ね?」

【卿介】
「……わかりました、お嬢。仲良くしてやってください」

【陽菜子】
「うんっ! ありがとう、真田さん」

年上で強面の男に臆さずにお説教をし満足して、陽菜子は
太陽のような笑顔を覗かせると、大事そうに友達を窓際へ
ちょこんと座らせる。