【陽菜子】
「あははっ、そうなんだ♪ 鳥さんも、天気が良くて
 うれしいんだね」

【卿介】
「(…………お嬢?)」

鮮やかな、花と緑に囲まれて……卿介が振り向いた先には
楽しそうに小鳥達と戯れる陽菜子の姿があった。

【陽菜子】
「え、お唄を歌ってくれるの? うん、聴かせて?」

病気のことなどまるで感じさせない笑顔で、陽菜子は
小鳥の囀りに耳を傾けている。

まるで舞台のようなその情景に、演劇など観た事もない
卿介は見入っていた。

陽菜子にとっても久しぶりの外出だ。彼女だけの庭園に
自分のような人間が踏み込むのも無粋というものだろう。

そう考えながら、卿介は主と小鳥の歌劇を見守る。

【陽菜子】
「……♪ ……♪」

【卿介】
「――――――」

まるでその少女の人柄を理解しているかのように、自然と
彼女の下へ集う小鳥達の姿に、卿介は感嘆を漏らす。

僅かでも穢れのある人間ならば真似出来ないような……
まさに純心無垢な彼女だからこそ許された空間(けしき)

それは一枚の絵画のように美しく彩られ、彼女達の歌劇は
卿介の心を浄化してくれるようにさえ感じるものだった。

【卿介】
「…………む」

陽菜子にとって保護者代わりでもある卿介にとって、目の
前の光景はとても喜ばしい事だ。

しかし、いつまでもここで呆けていても仕方ない。

その事に気づいた卿介は、無粋と知りつつも主にのみ
許された幻想の庭園に足を踏み入れた。

【陽菜子】
「あ……」

途端に、彼の気配を察知した小鳥達は羽ばたいて飛び
去ってしまった。

陽菜子は突然いなくなってしまった友人達を目で追い
きょとんと立ち尽くしている。

【卿介】
「―――お嬢」

【陽菜子】
「真田さん……? あは、今日も来てくれたんだ」

卿介の姿に気づいた陽菜子は、嬉しそうに笑顔を覗かせた。