【剣悟】
「せやから、ワイは―――ワイはまだ、消えるわけには
いかへんのや……」
【剣悟】
「どんな化け物が相手でも、必ず勝って……ワイの自由
気ままな“日常”を、守り続けなアカンのや……!」
そんな想いをぶつけるように、剣悟は渾身の一撃を零二の
顔面へと叩きこむ。
他人から見れば、カッコ悪く、下らない、赤の他人への
同情にも似た行為かもしれない。
けれど剣悟にとってそれは下らない“約束”でありながら
決して譲れないものだった。
なぜならば――――――
【剣悟】
「馬鹿みたいに、ワイの事を待ってくれとる
―――そこには何の意味もなく、得もあらへん……」
【剣悟】
「せやけど、そんなもん必要無いんや……それが
っちゅーもんやろ……!」
【剣悟】
「ワイの戦う理由は、ただそれだけ……また明日、
会う約束をしとるからや―――せやからワイはそいつを
破るわけには、いかへんねや―――ッ!!」
誰にも吐き出すつもりのなかった想いをその拳に込め
ながら、剣悟はただただ全力で、零二へとぶつける。
そして零二は、その想いを受け止めるように一歩も退く
ことなく、眼前へと立ち尽くしていた。
【零二】
「―――へっ。霧崎……効いたぜ、お前のパンチ」
そう呟き、ニヤリと嬉しそうな笑みを浮かべる零二。
【剣悟】
「――――――」
その姿を見て剣悟は、薄々感づいていた事実を確信する。
目の前の男こそが、自分の存在をここまで繋ぎ止めて
くれているのだと。
決して叶わぬ願いを、届けられない想いを背負うように。
必死に剣悟の存在を繋ぎ止め、その想いの決着を待って
くれているのだと―――
【零二】
「悪いな霧崎……俺にも、あるんだ。負けられない理由
ってヤツがな……だから―――」
【零二】
「そろそろ
【剣悟】
「おおおおおおおおおおおおお―――――――――!!」
己の存在、その全ての魔力を籠め、剣悟は零二へ向けて
その拳を振るう。
零二もまた、己の想いを籠めてその一撃に応える。
互いに譲れぬ
交錯する拳。
残された僅かな
二人の拳は、最後の咆哮を上げる。