水坂美樹

【美樹】
「ここの大判焼き、最近流行ってるのに個数限定だから
 なかなか買えないのが欠点だよね」

【紗雪】
「でも、そのぶん、こうして買えた時の喜びは大きい」

【美樹】
「だよねだよね~、並んでる時は売り切れないか心配で
 ドキドキしたけど、急いだ甲斐があったよね!」

【美樹】
「おかげで、新商品の“いちご練乳マヨ納豆味”もゲット
 できちゃったよ~っ♪」

【紗雪】
「……聞いてるだけで、凄そうな名前」

【美樹】
「そうだよね~、あまりにも美味しそうで、今からもう
 わくわくが止まらない感じだよ~」

【紗雪】
「…………」

【美樹】
「そう言う紗雪ちゃんは、またミルクカスタードなんだ?
 もしかして、大好物だったりするの?」

【紗雪】
「……ん。……ミルク、好きだから」

【美樹】
「やっぱりそうなんだ……でも、新商品の方もかなり
 美味しそうだったんだけどな~。ほら、練乳だよ?
 練乳っ!」

【紗雪】
「…………」

【零二】
「…………」

はしゃいでいる二人を前に、なんとなく乙女な空気を
感じて、出るに出れずにその場に立ち尽くしてしまう。

隠れるのは隠れるので、何やらやましい感じがするし
かと言って空気を読まずに話しかけるのも躊躇われる
……そんな八方ふさがりな状態だった。

【美樹】
「あれ……? 零二―――?」

【紗雪】
「っ!?」

そうこうしている間に、美樹の方がこちらに気づいて
声をかけてくる。

【零二】
「おう。奇遇だな」

俺は渡りに船とばかりに、二人に近づき返事を返す。

【紗雪】
「に、兄さん……」

【美樹】
「あ、もしかして零二もここのお店目当てで来たの?」

【零二】
「いや、俺はまお太の餌を買いに来たんだ。で、昔の
 バイト先が賑わっているみたいで、興味が沸いてな」

【美樹】
「そっか。それじゃあ、零二も食べる? 私の大判焼き
 一つあげよっか? 賑わってる理由がわかると思うよ」

【零二】
「もらえるもんなら貰っておく……と言いたいところだが
 ―――これ、何味なんだ?」

【美樹】
「ふふーん。なんと、新商品の“いちご練乳マヨ納豆味”
 だよっ! どう? 美味しそうでしょ?」

【零二】
「……他の味は無いのか?」

【美樹】
「今日はこれ一択だから、無いけど……?」

【零二】
「…………」

昔からこいつが好きなものは、珍妙な新商品であったり
ご当地限定のレアな珍味だったりするのを思い出しつつ
俺はため息を吐いて、わしわしと髪を掻き上げる。

【零二】
「お前、相変わらずのキワモノ好きだな……遠慮するよ」

【美樹】
「もぉ、零二が見た目だけで好き嫌いしてるんでしょ?
 昔っから、私のおススメした食べ物、なんにも食べて
 くれないんだもん」