【紅葉】
「わああああぁ~……超おいしそー……」

【零二】
「だな。……それじゃ、さっそく頂くか」

【紅葉】
「いただきま~すっ!」

俺との会話はどこへやら、まるで子供のように目を輝かせ
上機嫌にいただきますをする里村。

場違いな、けれど里村らしいノリを見て、どうやら完全に
緊張が解けたのだと実感し、思わず微笑んでしまう。

【紅葉】
「わ、わ、わ! なにこれ、このサラダ、超おいしーよ!
 ほらっ、れーじも食べて食べてっ」

【零二】
「ん……本当だ。これは美味いな……」

里村から差し出されたフォークにあるサラダを口に運び
その味に、思わず素直な感想が飛び出してしまう。

新鮮なガーデンサラダに、甘酸っぱい特製のソースを
かけ合わせた上に、上品に添えられたイカのフリット。

その組み合わせは予想よりずっと自然に口の中に広がり
まさに前菜(アンティパスト)として最適といえる爽やかな味わいだった。

【紅葉】
「サラダなんてみんな同じだと思ってたけど、ぜんぜん
 違うよねっ! この特製ソースのお陰かなっ?」

【零二】
「まあこれは、それだけじゃないとは思うけどな」

【紅葉】
「んむんむ……このパスタの方も、凄くおいしーよっ!
 やばいってこれ! 初体験がいっぱいだよぉ~っ♪」

ほとんど島の料理しか食べたことが無かったのだろう
彼女にはあまりに衝撃的だったのか、ご満悦な様子で
他人の目も憚らずにはしゃぐ里村。

そんな彼女のウブな様子は、周りの客にもクスクスと
笑われてしまうほど、微笑ましい雰囲気を醸し出して
いた。

【紅葉】
「れーじれーじっ! これおいしーから食べてみてっ!
 あ、でも代わりに、れーじのやつも食べさせてねっ?
 そっちもすごい美味しそうだしっ」

【零二】
「わ、わかったから少し落ち着けって。ほら里村、お前
 笑われてるぞ……?」

【紅葉】
「あぅ……」

周りの視線に気づいたのか、はしゃぎ過ぎていた自分を
見られていた恥ずかしさに里村は再び縮こまってしまう。

【零二】
「ったく……そんな慌てて食わなくても、料理は逃げて
 いかねえんだから、ゆっくり味わって食べようぜ?」

【紅葉】
「う、うん……」