【龍一】
「行くよ、なぎさっ!」
【なぎさ】
「えっ? ちょっと龍一……ひゃっ―――!?」
【なぎさ】
「りりり、りゅ、龍一っ!?」
しかし、龍一のとった行動は、なぎさの想像の遥か
斜め上のものだった。
【龍一】
「元気が無いまま別れちゃったら、エスコートは失敗
だからね。なぎさには、笑顔でいて貰わないと」
【なぎさ】
「だだだ、だからって肩車なんて……っ!!」
あまりにも突然にして大胆な龍一の行動に、なぎさは
完全に隙を突かれ、混乱にも似た赤面でその顔を染め
しきりにスカートを気にしながら、バランスを取る。
【なぎさ】
「ねえ、ちょっと龍一ってばっ! は、恥ずかしいから
おろしてよぉ~っ!」
【龍一】
「大丈夫だって、落としたりなんかしないから」
【なぎさ】
「そういうことじゃなくって……み、みんな見てるよ!」
【龍一】
「まあまあ、ここは僕に身を任せて」
【なぎさ】
「で、でもぉ……」
【龍一】
「いいから。行くよ?」
頭の上で暴れるなぎさにかまわず、龍一は夕暮れ時の
『天の川』を悠々と歩き出す。
【なぎさ】
「だ、ダメだってばぁ……りゅういちぃ……こんなの……
恥ずかしすぎるよぉ……っ」
道行く人の視線と、この歳で肩車ということの羞恥心と
そして、かつてないほど密着した龍一に、彼女の思考は
完全に乱れ、爆発しそうなほどに心臓を高鳴らせる。
もはや抵抗する力も無く、ぷるぷると羞恥に震えながら
成されるがまま龍一の肩に乗る、まな板の上の鯉ならぬ
想い人の上の乙女状態だと言えた。