サクラ

【零二】
「……おおっ!」

俺は目の前の眩しい光景に思わず息をのむ。

そこには、まさに文字通りの絶世の美女達が立ち並んで
いた……というのは褒めすぎかもしれないが、過言では
無いのではないか、という感動を覚えたのも事実だ。

着替えに時間がかかっていただけあって、気合いの入った
水着姿は、まさに戦闘(あそぶ)準備万端と言ったところだろう。

【サクラ】
「えへへ、どうかな? 似合ってるかな……」

少しだけ照れくさそうに、はにかむサクラ。

彼女にとっては初めての海、初めての水着―――!

そして、澄んだ青、波の音、潮の香り、どれもが新鮮な
輝きを放っているに違いない。

【零二】
「そうだな、まあまあかな……」

不覚にも、サクラの水着姿にドキッとしてしまった俺は
誤魔化すようにそっぽを向いた。

【サクラ】
「むぅー。もっとちゃんと褒めてほしいんだよー!」

【美樹】
「そうだよ零二! 女の子にはちゃんと言葉にして欲しい
こともあるんだよ」

【零二】
「…………」

美樹の破壊力抜群のプロポーションに、むしろ言葉を
失ってしまう。

こいつ、昔よか成長してないか……?

【美樹】
「ねえ、ちゃんと聞いてるの? 零二」

【零二】
「へ……ああ、きいてるきいてる」

【サクラ】
「むぅ~~~~っっ!!!!」

【サクラ】
「鼻の下をのばしたレイジのことなんか、放っておいて
二人で遊ぼう、美樹さん―――ッ!!」

【美樹】
「あ、あはは……」

頬をふくらませ、美樹の手を引っ張るサクラ。

子供っぽいサクラと、面倒見の良い美樹は、出会って早々
すぐに打ち解けたようだった。

ちなみにサクラのことは、相楽家にホームステイしている
女の子だと紹介しておいた。

【紅葉】
「じゃっじゃっーーーん♪」

サクラたちの後に続くようにしてやって来た里村が、腕を
頭の後ろに組んで変なポーズをしてみせた。

【紅葉】
「ふっふーん、どうかなれーじ? 悩殺されたー?」

【零二】
「あー……うん、されたされた」

里村らしい大胆かつキュートな水着で、とても似合って
いた。

……が、しかし、残念ながら悩殺までには至らなかった。

【紅葉】
「なによ、そのやる気のない返事は! せっかくれーじの
 ためにせくすぃーなやつ選んできたのにぃ!」

【綾音】
「紅葉のような起伏に乏しい体では、感じるものも感じ
 ないんじゃないのかしら? ね、零二くん♪」

【零二】
「っ!」

前に着替えを覗いたとき一度は目にしていたが、やはり
というか、なんというか……

普段の清楚さと反比例する大きな胸。

水着もけっこうきわどいビキニで、パレオから透けて
見える魅惑のラインはまさに悩殺!

【綾音】
「ふふ、そんなに情熱的な視線を送られたら、いくら私
 でも恥ずかしいわ……」

その割には、とても嬉しそうな雨宮。

【零二】
「あ、いや、すまん……」

【紅葉】
「むきぃーっ! なんで私のときと違う反応なのさ!?」

【紅葉】
「露骨にフェロモン垂れ流しすぎなんだよ、かいちょーの
 場合は! 恥ずかしいなんて絶対嘘だしっ!」

【紅葉】
「れーじにはもっと慎み深い女の子の方が合ってるん
 だよ!」

【紅葉】
「あれねー、かいちょーはオジサマ向きなんだよ。もう
 存在そのものが 淫猥(いんわい)だから、米屋の相手でもすれば?」

【綾音】
「ふふふ、同性の嫉妬って醜いものね……」

【綾音】
「こんな子だけど、これからも仲良くしてあげてくれる
 かしら、零二くん?」

【零二】
「あ、ああ……」

【紅葉】
「くぁ、なんで上から目線なのさっ! むっきぃ~っ」

【紅葉】
「つーか、なぎさ、あんたも一体いつまで私の後ろに
 隠れてんのさ!」

【なぎさ】
「―――ひゃあっ!」

里村の小さな背中で、さらに小さく縮こまっていた鈴白を
引っ張り出す。

【なぎさ】
「だ、だって、その……男の子の前じゃ、恥ずかしいし」

【零二】
「…………」

この面子の中で、唯一ふつうの女の子らしい羞恥心を
見せる鈴白に、ある種の感動を覚える。

それに、決して恥ずかしがるような水着姿ではないと
思った。

さりげなく龍一の方を窺ってみると……

【龍一】
「ふんふんふんふんふんっ―――!」

お前は、いつまで体操してるんだよ。

鈴白の視線に気づいてやれ、この馬鹿が!

【零二】
「あれ? これで全員か……?」

確か、あと一人いたような……

視線を巡らせると、探していた目的の人物を発見する。

【紗雪】
「…………」

なぜか紗雪は自分の胸に手をあてながら、一人でぼそぼそ
と呟いていた。

【紗雪】
「―――っ!」

俺の視線に気づいたのか、ふと目が合う。

【零二】
「さゆ―――」

【紗雪】
「どうせ私は平らかだから……兄さん好みのばいんばいん
 じゃないから……!」

【零二】
「えと……」

“ばいんばいん”って……?

どうやら今の紗雪には、触れられたくないことがある
らしい。

きっと男の俺にはわからない悩みの類なのであろう。

兄として、そっと見守っておこう……