【卿介】
「――――――『魔術兵装』(ゲート・オープン)――――――」

卿介の 言霊(ことだま)と共に、彼の手から溢れた魔力が形を成す。

瞬間、彼の周りに光の嵐が吹き荒れる。

そしてその激しい魔術粒子の嵐と共に、彼の“切り札”
である『戦略破壊魔術兵器』(マホウ)―――ミスティルテインが
周囲へと具現化された。

卿介が具現化したのは、まるで死神が (うた)死への数字(カウントダウン)
刻まれたカード……そう、“トランプ”だった。

死神が描かれたジョーカーの核さえ破壊されなければ
念ずる事により一度に53枚まで複製出来る、卿介の
“切り札”―――

それこそが、卿介の持つ『戦略破壊魔術兵器』(マホウ)―――
ミスティルテイン。

魔力の風を生みだすことで卿介の意思で自由に空を舞う
53の死神は、まさに逃れられぬ終焉を告げる (つるぎ)

彼の具現化した心象が 『切り札』(ジョーカー)である理由は、その
生き様を辿れば、理解に至る。

主へ絶対の忠誠を誓い続ける卿介は、使い手の命令に
よって、天使にも悪魔にも成り得る。

―――しかし、時として例外が在る。

その例外こそが、ジョーカー。

たとえその行為が主の意思にそぐわなくとも、主の生命を
守るためならば、どんな裏切りも(いと)わない。

影で主の心を裏切ろうとも、その生命を守り続ける―――
それが真田 卿介という男が掲げる、真の“忠義”だった。

守るべき者のために、卿介は“死神”となり敵を討つ。

それこそが、忠義に生きる彼が唯一『個』を示す瞬間。

卿介にとって真に守るべきものは、主人の命令ではなく
その生命。(ゆえ)に彼は躊躇(ためら)わない。

彼は、死よりも重い……裏切りの忠誠を全うしているの
だから―――!

【少女】
「あ……ぁ……」

信じられない光景に、少女は恐怖に凍りついたまま奥歯を
カチカチと鳴らす。

【卿介】
「…………」

そして卿介が一歩近づくたびに身をすくめ、守るように
身体を腕で抱く。

【少女】
「ひぁっ、こ、来ないで! た、助け……きゃあっ!?」

数枚のトランプが宙を舞い、彼女の逃げ道を塞ぐように
降り注ぐ。

高速で放たれたトランプは、少女の頬をギリギリでかすめ
硬いアスファルトの地面に突き刺さる。

【少女】
「ぁ……え……?」

トランプがアスファルトを穿つという信じがたい光景を
目の当たりに、少女は腰が抜けたかのようにへたり込む。

【卿介】
「――――――」

唖然とする少女を前に、卿介は冷静に次の一手を打つべく
思考を巡らせた。