【陽菜子】
「あ――――――」

最後の魔力を振り絞った『高潔なる処女(アイギスメイデン)』を砕かれて
雷神の閃光が迫る光の中、陽菜子はぽつりと呟く。

【陽菜子】
「そっか―――もうおしまいなんだね、お兄ちゃん……」

龍一の手によって放たれた神話魔術は、陽菜子の“鳥籠”
ごと、彼女を包み込む雷光と成る。

その圧倒的なまでの破壊力を前に、彼女は一瞬にして
消滅されるだろう。

秒に満たない刹那、少女の身体は消滅する―――それが
龍一にとっての、せめてもの手向けのはずだった。

だが――――――

【陽菜子】
「真田さん!? な、なんで……!」

総てを射抜く雷光(トールハンマー)』の神大なる魔力が卿介の身体を砕き
その存在ごと消滅すべく、塵と化す。

しかし全身が削られていくのと同じ速度で、卿介はその
魔術(ルーン)』から魔力を吸収し、ミスティルテインで自己の
肉体を修復していく。

龍一の拳から放たれた一撃故に、『傷だらけの忠誠心(ストームブレディンガー)』に
よって、その溢れんばかりの生命力(ルーン)を吸収し、されど尚も
輝く神話級の雷槍にて、死神はその身を焼き続ける。

【卿介】
「ぐぅっ……! ぐっ……く……がぁっ……!」

【龍一】
「なぜだっ!? なぜ貴方のような人が……」

【龍一】
「たった一人の女の子のために身を投げ出せるような
 人間が、どうしてあんな事を……!」

【卿介】
「ぐっ……くっ……く、くくくっ……」

破壊と再生―――相反するその二つを繰り返しながら
口から血の(あぶく)を吹き出し、死神は笑みを浮かべる。

【卿介】
「君にはわからんさ、少年……たった一人の人間を……
 たった一人の人間だけを護れれば、それでいい……」

【卿介】
「そのためならば、泥だろうが血だろうが啜って生きて
 いける……そう考える者の、生き方はな……」

【龍一】
「…………」

皮が焼け、肉が爆ぜる異臭の漂う中で……寡黙な死神は
それでも雄弁に語る。

それは誇る事も奢る事もなく……ただただ、己の生き方に
殉じる男の姿だった。