【零二】
「猫……?」

【紗雪】
「……おいで」

そのあまりの数に戸惑っている俺をよそに、紗雪は至って
冷静に、腰を落として優しい声で猫達へと語りかける。

【紗雪】
「ふふっ……よしよし」

にゃーにゃーと周囲へ集まって来る猫達に、普段見せない
ような微笑みを覗かせて愛でる紗雪。

猫達もそれを求めていたかのように、居心地が良さそうに
しっぽを立てて()り寄って来る。

【零二】
「なんていうか、すげえ光景だ……お前って、そんなに
  猫に好かれる性質(タチ)なんだな」

【紗雪】
「ん……ここ数日、色々あってあんまり構ってあげられ
なかったから」

【零二】
「それでこれだけ慕われてるのか……」

視線はそのままに、猫を撫でながら俺の素朴な疑問に
答える紗雪を見て、俺は思わず感心してしまう。

紗雪が猫好きなのは知っていたが、あまり外出しなかった
こいつが、野良猫とここまで仲良くなるほど商店街に通い
つめているという事実が、無性に嬉しかった。

【紗雪】
「どうしたの、兄さん? ニヤニヤして……」

【零二】
「ん? いや、お前がそうして楽しそうなのが嬉しいって
だけだ」

【紗雪】
「くすっ。……変な兄さん」

せっかくの上機嫌な妹に嫌な過去を思い出させたくなくて
適当に誤魔化すと、紗雪にクスクスと笑われてしまう。

奇妙な事件に巻き込まれて忘れかけていたが、こんな妹の
姿が見たくてこの島に戻って来たことを思い出して、胸が
熱くなる。

この紗雪の笑顔を守り続けるためにも、俺達は負けるわけ
にはいかないと、改めて考えてしまう。