【紗雪】
「……………」
【零二】
「えっと……これは一体どういうことでしょうか?」
【紗雪】
「……兄さんは忘れてたかもしれないけど、美鏡温泉って
実は混浴……」
【零二】
「えぇっ!?」
【紗雪】
「ふ、振り返っちゃ駄目!」
【零二】
「うぉ、すまん―――っ!!」
慌てて俺は前を向く。
【紗雪】
「一応、男女の入浴時間は分けてるんだけど、今みたいな
遅い時間だと混浴になるの」
【零二】
「そうだったのか……」
気づいてたんなら、もっと早く言ってくれよ……
【紗雪】
「……なんだか懐かしい。こうやって一緒にお風呂に
入るの」
【零二】
「ああ……」
【紗雪】
「あの頃は、なにをするにも兄さんと一緒だったね」
昔を思い出すかのように、懐かしげな声で紗雪は言った。
【零二】
「そうだな……」
最初はどきどきしたが、俺も徐々に落ち着いてくる。
【零二】
「……他の客全然いないな」
【紗雪】
「この時間は混浴になるから、お客さんはあまり来ない
んだって」
【零二】
「へえ、貸切状態みたいで、何だか得した気分だな」
【紗雪】
「うん……じゃなきゃ、やっぱり私も恥ずかしいし」
【零二】
「いや。でも俺がいるんだけど……」
【紗雪】
「別に兄さんになら…………平気だし」
【零二】
「えぇっ!?」
【紗雪】
「そ、その兄妹だから、とっくの昔に兄さんには、私の
裸みられちゃってるし……今さら、恥ずかしがるもの
でもない」
いや、それは子供のときの話ですから……
今はもうお互いれっきとした大人だし、いくら兄妹で
あっても、さすがにこれはまずいんじゃ……
【紗雪】
「もう一度ね……兄さんと来たかったんだ」
【零二】
「……そっか」
【紗雪】
「うん。あの頃はほんとに楽しかったなぁ……」
再び昔のことを思い出す紗雪。
【零二】
「―――今だって楽しいだろ?」
【紗雪】
「え……」
【零二】
「里村達と知りあって、龍一も帰ってきて、サクラって
いう新しい家族も増えたんだ」
【紗雪】
「…………」
【零二】
「それにまたこうしてお前と一緒に暮らせてる」
【紗雪】
「あ……」
【零二】
「これからはずっと一緒だぜ。もう離れ離れになること
なんかないんだ」
そのために俺達はここまで苦労してきたんだ―――
【紗雪】
「うん、今も……ううん、今の方がもっと楽しいよ兄さん」
―――だから、きっと報われるさ。
そんな俺達の想いに応えるように……
満点の星空に、一筋の光が流れ落ちた―――