【零二】
「―――ん……」
目を開けると、橙色の眩しい光が目に飛び込んできた。
寝ぼけ眼を擦りながら、目の前を確認すると……
淡い夕焼けが、視界いっぱいに広がっていた。
風が吹いて、七海湖の爽やかな香りが鼻腔をくすぐった。
【紗雪】
「―――おはよう、兄さん」
すぐ近くで優しい声が聞こえた。
俺の顔を少し覗き込む紗雪の姿が目の前に。
【零二】
「―――ああ、そうか。あのあと俺、眠っちまったのか」
【紗雪】
「うん、そうだよ……」
昼食を食べたあと、あまりに陽気が良かったんで、つい
居眠りをしてしまったらしい。
俺は頭を動かし、辺りの状況を確認しようとした。
そのとき、ふと頬に感じる柔らかい感触―――
いや、さっきからずっと後頭部にその感触はあった。
そして、すぐ目の前には紗雪の顔……
つまり、これは――――――
俗に言う“膝枕”という代物だった。
【紗雪】
「ふふ……兄さんの前髪って、けっこう長いんだね」
目にかかった髪を、やさしい手つきで梳き流す紗雪。
その顔には、本当に穏やかな微笑が浮かんでいた。
【零二】
「わ、悪い……今起きる」
【紗雪】
「……もう少し、こうしていたいかも」
【零二】
「そ、そうか……? お前がいいんなら、いいけど……」
【紗雪】
「それじゃあ、もう少しだけ……」