【海美】
「あたたたた~……うぅ、なんでこんなところにバケツ
がぁ~」
するとそこには、水滴を纏いキラキラと反射させながら
佇んでいる一人の女の子がいた。
制服を見る限り、後輩のようだが……
【海美】
「パンツまで……じゅくじゅくして、落ち着かないよぅ」
若干涙目になりながら独り言を呟いている彼女の足下には
用途の解らないバケツが虚しく転がっていた。
どうやら彼女は、バケツの中にたっぷりと入っていた水を
ブラまで透けるほど盛大に被ってしまったようだ。
【零二】
「大丈夫か?」
【海美】
「は、はい。ごめんなさい、巻き込んじゃいましたか?
すみません! そこの階段から転げ落ちちゃって……」
【零二】
「転げ落ちちゃって、って―――」
俺は背後の階段をちらりと見ながら、どうやったらこの
バケツにダイブ出来るのかと、思考を巡らせてしまう。
【海美】
「あの、もしかして思いっきり濡れちゃったりとか……」
【零二】
「俺の方は少し足が濡れたくらいで平気だったけど……
そっちは?」
【海美】
「私の方は大丈夫です。ただの水だったみたいだし……
それよりも、本当にごめんなさい。私が不注意だった
ばっかりに……」
【零二】
「…………」
不注意という言葉で片付けるには、あまりにも考え難い
ドジな気もするのだが……あえて触れずにおく事にする。
【零二】
「相当アクロバティックな転がり方をしたようだからな
今後はもう少し、気をつけたほうがいいぞ」
【海美】
「えへへ……はい、お気遣いありがとうございますっ!
これからは気をつけますね」
まるで濡れている服まで乾いてしまいそうな温かな笑顔を
振りまきながら返答をする彼女を見て、俺も微笑み返す。
多少のとばっちりを受けたはずだが、不思議と悪い気は
せず、むしろ好意的に思えてしまうような―――
そんな表情を覗かせる女の子だった。