【海美】
「わたし、ここが実家なんです。だから、お家のお手伝い
 みたいなものです」

巫女装束と竹ぼうきをひらりと、風にたなびかせながら
彼女は答える。

【龍一】
「へえ。それじゃあ、アルバイトじゃなくて、本物の
 巫女さんなんだね」

【海美】
「あはは。わたしなんて、まだまだ見習いですけどね」

そう言うと彼女は、たははと、はにかむように苦笑する。

【海美】
「あなたの方は、どうして神社に? もしかして何か
 願掛けですか?」

【海美】
「それなら、絵馬とかおみくじなんかもおススメですよ。
 今なら出血大サービスしちゃいますし、どうですか?」

【龍一】
「大サービスと言ってもなぁ……ああ言うのは、複数回
 同時にやってしまうと意味は無いと思うんだけど」

【海美】
「なら、ぜひたっぷりとお賽銭して、たくさん願い事を
 成就しちゃうなんてどうでしょう?」

【海美】
「ほら、わたしの家もあなたも一緒にハッピーになれたら
 素敵だと思いませんか?」

【龍一】
「はは……こんなフランクな巫女さんには初めて会った
 気がするよ」

まるで何かのセールスのように畳み掛けられて、龍一は
その勢いに思わず一瞬たじろいでしまった。

だが、すぐにその親しみやすい彼女の笑みに癒されて
ちゃっかりとした巫女の仕事ぶりに苦笑する。

【海美】
「いえいえ。今の時代、信仰には色んな形があるんです。
 ウチの神様は、次世代な頼れるお方なんですよ」

【龍一】
「なるほどね。たしかに、それは頼もしい限りだよ」

【海美】
「そうなんです。あなたもぜひ、体感してみてください」

【海美】
「お守りなんかもご利益バッチリでお得です。一つあれば
 受験も縁結びも何でもござれなんですよ? あははっ」

【龍一】
「な、なんともハイブリッドなお守りだね、それは……」

それだけご利益があれば、喜ばしいはずなのだが……
あまり万能すぎると不安に思ってしまうのは、きっと
龍一が信心深く無いせいもあるのだろう。