―――だが、しかし。

敗北を覚悟した俺の目の前に広がった景色は、決して
絶望的な光景などではなく―――

その“死”を屠りつくした見知らぬ黒き戦女神が、悠然と
ただ静かに立ち尽くしていた。

【零二】
「アンタ、は―――?」

【ワルキューレ】
「…………」

【剣悟】
「―――嬢ちゃん何者や。どんな手品を使うたのか知ら
 へんけど……ワイの攻撃を無効化するなんて、只者や
 ないようやな」

【零二】
「攻撃を―――無効化……?」

突如現れた黒ずくめの少女の姿に目を奪われていたが
すぐに上空へと視線を移すと、そこにはなぜか空中で
静止する、大量の“ストリームフィールド”が在った。

【紗雪】
「……彼が攻撃を止めたわけじゃ、ない……?」

【剣悟】
「こないな隠し玉を味方につけとったとは、芳やんも
 隅におけん男やな……せやけど、千載一遇の好機(チャンス)
 みすみす逃してたまるかいな!!」

ナイフを自らの前方へと呼び戻し、先ほどよりも高密度に
一点を突破するかのように密集させた、白銀の刃が迫る。

霧崎の放った兇刃は、純度の高い魔力の奔流……生半可な
攻撃や防御ならば一瞬にして貫くであろう一撃―――!

【剣悟】
「な―――!?」

しかしそんな霧崎の渾身の一撃は、目の前の黒き少女の
前には、何の意味も成さなかった。

【ワルキューレ】
「――――――」

【零二】
「は―――」

涼しげに立つ彼女の麗しさに、俺は思わず笑みを浮かべ
呆然と見惚れてしまう。

それは戦いというよりは、舞のように見えるほど優雅で
―――ゆえに目の前の粗暴な脅威など、気高い彼女には
決して届くはずもないと確信させられる。

その姿はまさに、戦場を駆ける黒き戦乙女―――例える
ならば、そう……ワルキューレの少女。

漆黒に身を包んでなお輝きを魅せる彼女の風貌は、まさに
その名を冠するに相応しいものだった。