――――――始まりの記憶は、そう。
そこには、いつだって桜が在った。
バイトの帰り道、俺は毎日のようにお気に入りだった
その場所へと来ていた。
……この島で一番大きな、桜の樹の下へと。
そして俺は、その桜の樹の下へ行くと、なんとなく心が
落ち着いて……だから、色んな事を話したんだ。
その桜へ向かって、俺がいかにこの島が大好きなのか
って事を。
そう――――――
今こうして1年ぶりに踏みしめる故郷……月読島が本当に
大好きなのだという事を。
【零二】
「あれから――――――もう4年、か……」
眩しくも心地よい日差しに当てられながら、俺はつい
かつてこの島で過ごしていた日々を思い返す。
故郷を離れていた4年間は、ただひたすらにバイトを
繰り返す日々を送っていた。
それは、あの頃からなんら変わらない……叶えたかった
俺の“夢”を実現するためだった。
日本の遥か南西に位置する常夏の孤島・
日本である事を疑いたくなるような心地良い気温を保つ
自然溢れるこの島こそが、俺の生まれ故郷だった。
日本最大のマングローブを所持し、自然に囲まれた島で
島人は互いに助け合い、その生活を支えている。
島人との距離は都会よりもずっと身近にあり、旅人で
あろうとも例外なく、みんな温かく迎え入れてくれる。
島特有の動物として『ツクヨミノヤマネコ』という猫が
生息しており、島マスコット的存在にもなっている。
水牛車なども移動手段となっており、見渡す限り一面に
のんびりした景色が広がり、出迎えてくれる。
そんな島であるがゆえ、年々観光客も増えて来ている
一種の楽園の島ともいえるだろう。
都会暮らしを経て戻ってきた今、俺はその意味を深く
理解する事になる。
無論、都会にはこの島にない多くの娯楽があり、利点も
多いのは確かだった。
しかし、この島にはそれを補って余りある独特の魅力が
備わっているのだと思う。
【零二】
「――――――よし、行くか」
俺は今一度、眩く照らし付ける天を仰ぎ、目的地へ向け
新たな日常への一歩を踏み出した。